トーキングアバウト 青い鳥のタロット 『 XIX.The SUN 』

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XIX. The SUN -太陽-

「XIX The SUN 太陽」のカードは、ウェイト・スミス版とマルセイユ版とで絵柄が少し異なります。ウェイト・スミス版では塀の前で馬に乗る開放的な姿の子どもと頭上に輝く太陽、マルセイユ版では太陽から降り注ぐ光の下、塀の手前にいる子ども二人。
ひとつ前の「XVIII The MOON 月」の不穏な絵に比べると、明るい雰囲気です。
カードとしてはそのイメージ通り、「和解」「陰と陽の統合」「心を開く」「調和」「啓示」「生きる喜び」「バイタリティ」「注目を浴びる」といった意味をもつとされます。
カードナンバーは19、1+9=10→1+0=1のバリエーション。「I The MAGICIAN 魔術師」の1→「X Wheel of Fortune 運命の輪」の10→19で「XIX The SUN 太陽」という流れです。
ぱっと見では意味がわかりやすいカードのようにも思えますが、制作過程は果たしてどうだったのでしょう? はじめに三上さんにカードの象意を伺ってみましょう。

三上牧(以下、三上) まず、「XIX The SUN 太陽」はひとつ前の「XVIII The MOON 月」で得体のしれないザリガニへの恐怖として描かれた「不安」を統合した結果の、「協調」や「調和」を表すとされているとご説明しました。
大きくて目立つ太陽と、マルセイユ版には二人の子どもが描かれています(ウェイト・スミス版は恐怖の克服という意味で、子どもが馬を乗りこなしています)。
19番目のカードなので、1+9=10→1+0=1で1のバリエーション。そこには太陽がオンリーワンという意味もあるのかもしれませんね。

描かれている子どもは、だいたい3~5歳くらいのイメージなんですよ。子どもって神の国の住人と言われますよね。2歳まではまだ脳みそが確立していなくて人間未満というか……。それが成長し7歳近くなるとほぼ人間に近づく。「XIX The SUN 太陽」に描かれている3~5歳の子どもは、神(光)と人間(闇)のちょうど中間のような存在だと思われます。
魂が無垢であり、調和のとれた状態。子どものような心でなければ神の国へはいけないのです。

それも踏まえて、ここに描かれているのは神の国に続く庭の入り口で喜びに踊る図だと申し上げたんですよね。

川口忠彦(以下、川口) そのことばのイメージに、ピピッときたところがあったんです。というのも、たまたまその頃読んでいた本に北海道の大雪山(トムラウシ山)のあたりにカムイミンタラ(神遊びの庭)と呼ばれるところがあると書いてあって。興味を持ってネットで検索して映像を見たりしていたんですよ。山のなかに花が咲き乱れている場所もあって、印象的な風景でした。三上さんの説明とのシンクロニシティを感じたので、そのイメージもちょっと借りました。

三上 神の国に続く庭というのにはぴったりのイメージでしたね。最初のラフでは子どもに対して太陽のサイズが大きすぎて、子どもの印象が薄くなってしまうと申し上げた記憶があります。

XIX.The SUN 完成版
XIX.The SUN 完成版

川口 そこで修正を加えて現行のサイズ感になっています。
太陽の抽象的なパワーを表現するために、最初は太陽の顔は描かない予定だったのですが……。人間の目の性質上、手前に二人も人を描くとそちらに目を奪われてしまうんです。それで、太陽のほうにもアイキャッチをつくるためには顔を描きこむことになって。
手前の子どもたちは双子を髣髴させるように似せて、でも中性的な感じで性差に意識が行きすぎないようにしようと思ったのですが、三上さんには性差を描きすぎていると指摘されてしまったんですよね。

三上 ラフ絵では少し描き分け過ぎかなぁと感じました。子どもが描かれているのは、無垢な存在としてなんですよね。幼い頃はまだあまり男女の差がないという意味で。だからあまり男女の差がついてしまうと、子どもとして描く意味がなくなっちゃう。

それで、二人の子どもが体に巻き付けている布を同じにしたらどうでしょうかと。

川口 最初、女の子のほうが胸があったんです。布でそれを隠して、男の子のほうは腰にしか巻いていなかった。

三上 3~5歳だから胸はないですよ(笑)。

川口 そうなんですよね、それでその区別をやめて布の巻き方を同じにしました。三上さんのご提案のおかげで修正が少しで済みました(笑)。

この絵は「22枚の種類の違う面白さ」というところから、ポンペイ遺跡の壁画などを思わせるモザイク的な雰囲気にしてみました。このカードと「XI STRENGTH 力」のカードには、なぜか古代っぽい感じが出ていますね。ちょっと怖い感じの太陽の表情もそこに合わせていて。太陽の人智を超えたエネルギーを表現すべく、サイケデリック風味の力強さを付け加えました。ヨーロピアンで19世紀的な絵柄のこのデッキの中では、古代的、サイケ的な表現はかなり異質ですね。

――たしかにエネルギッシュな感じです。

川口 陰陽の統合という説明を聞いて、太陽の光線のパワーや白さと、影の濃さ、黒さの両方を出してコントラストを強めようと思いました。太陽の光なのに黒がしっかり使われているところなどが、力強さにつながっているかと思います。

ポンペイ遺跡のモザイク
ポンペイ遺跡のモザイク

三上 象徴的には、曲線が陰で、直線が陽と言われています。

川口 この絵では曲線と直線の両方を使っています。22枚のなかでは絵としての面白さを出すのが難しかったケースですが、古代ネタをもってきてなんとかうまくまとまりました。自分で改めて見てみると、終盤に描いたのが効いていて、結構絵の要素としては充実していますね。いろいろなものの描き方も慣れてきたような。子どもの表情がいいなと思います、自画自賛です(笑)。

――壁に囲まれていると言うことでしたが……?

川口 周囲を壁で囲まれた円形の庭という設定で、子どもたちの背後にあるブルーのものが壁なんです。あまり強調していないのでちょっとわかりにくいかもしれませんね。

三上 普通は「XIX The SUN 太陽」が出るといい読み方をするものなんですよ、「OK、丸く収まるよ」みたいな感じで。でも、川口さんの絵だと太陽に見張られているような気もします(笑)。

――この光線の強さだと日焼けしてしまいそう。

川口 エネルギー強すぎましたか(笑)。知り合いの女性には、「XVIII The MOON 月」のカードは優しくて安心感があるのに、「XIX The SUN 太陽」のカードは怖いと言われたんですよ。僕の絵描きとしての傾向――不吉なモチーフに希望を込める半面、”よいとされているもの”に対しては逆に恐怖を感じたり、警戒してしまうところが如実に出たのかもしれません。自分では全然意識していなかったけれど、無意識下のそういう感覚が知らず知らず絵に表れているのか……。

――そういう意味でも深みがある絵になっていますよね。太陽の光の激しさと、子どもたちの無邪気だけどアルカイックな微笑がいい対比をなしています。

――ところで、この絵では青い鳥が子どもたちの近くを飛んでいますよね?

川口 調和の意味があるということで、鳥たちもなついてきてくれている絵にしました。愚者から始まって、寄ってきたりいなくなったりしてきましたが、ここからはいよいよ「青い鳥たちとともにある」感じですね。

――子どもになつく青い鳥たちというモチーフだけでもかわいらしく感じるから不思議ですね。次の「XX JUDGEMENT 審判」~「XXI The WORLD(UNIVERSE) 世界」のカードにどのようにつながっていくのか、楽しみです。

「XIX The SUN 太陽」制作をめぐる裏話、いかがでしたか?
次回は「XX JUDGEMENT 審判」。ドラマティックなモチーフだけにどのような形で川口さんらしい絵に仕上がったのでしょうか。どうぞお楽しみに。

***

注 ウェイト・スミス版:ライダー社の、通称ウェイト版のこと。パメラ・スミスが作画を担当したことも考慮に入れ、この対談ではこのように表記します。

 

[取材・構成 藤井まほ]

 

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