去る1月9日に行われた『ヴィーナス&ブレイブス』の楽曲演奏会『ヴィーナス&エコーズ』は大盛況でした。
発売から13年分の、深く熱い想いを持つ数百人で作った、儀式のように真摯に始まり、笑顔と涙で過ぎ去った時間。
当日は演奏者と指揮者の面々はもちろん、フロアスタッフの皆さんも大活躍で、大変お疲れ様でございました。
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私は、当日に至るまでの約一年、ビジュアル面と企画のコンセプト面を作りあげていきました。
デザイナーの白倉良晃氏と共に、キービジュアルやパンフ、アンコールの掲示にも気を配って、
全てのデザイン要素を「一級コンテンツの設え」になるようパッケージングしました。
企画名やキャッチコピーも提案させていただきまして、
「“本物感”漂う、商業クオリティのエッセンス」をふりかけていきました。
『“監督全面協力”の本気』です。
結果として「演奏会」としてはもちろん、それ以上に、イベント全体がひとつの作品であるかのごとく『 VENUS & ECHOES 』という新たな魂の宿りを感じていただけたなら、今回の私の試みは成功です。
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個人的に、そこまでパワーを注いで企画の実現と成功に向けて尽力した一番の目的は、
「ヴィーナス&ブレイブスファンの方への恩返し」です。
とりわけ、「ここ何年も僕の個人活動を応援してきてくれた方々への恩返しをしたい」というのが正直なところでした。
そして、それはしっかり果たせたと言っていいと思います。
あの場にいた多くの人達が素晴らしい楽曲と演奏を心から楽しんだことは、その場からも、終演後に皆さんとお話していたときにも、十二分に伝わってきました。
この企画に尽力したことが、
「続編ゲーム」という形で次をお見せできない、自分なりの精一杯の恩返しです。
喜んでいただけたようで、本当によかったです。
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さて、私は以前から「ヴィーナスは“Waltz for ~”だけ突出しているけど、どれも名曲揃いなんだ」と言い続けてきたとおり、「ヴィーナス&ブレイブス」の音楽が良いものであることは、自分にとっては“14年前からの”自明の理です。
また、プロの演奏家であり、かつヴィーナス&ブレイブスのファンでもある河合さんが主催していることで、演奏が良いものになるというのも、確定事項のようなものでした。
(もちろん実現に当たって大変な配慮や苦労があったことと思いますが、それをも乗り越えるだろうという期待も含めてです)
そのように、内容的には成功がほぼ約束された中で、私のしたことは、
この企画そのものの『位置づけ』と『演出』です。
私はいま、個人で創作と表現をするアーティストとして活動しています。
「市場や顧客の求めに応じておもてなしをする」ゲーム開発者とは違い、
アーティストは
“自らの作品や表現に対して、心から誠実であること”
そして
“社会の変化を感じ取りながら、全身全霊をもって筋の通った生き方をすること”
が、とても大切だと考えています。
「ニーズがある」というだけでは動けないのがアーティストなのです。
そこにアーティスト自身にも確固たる理由がなければ、やってはいけないのです。
そこを守り続けることに酔ってはじめて、アーティストとしての軸ができていくのです。
述べた通り、この企画の主たる目的はヴィーナス&ブレイブスファンの方々への恩返しをすることです。
一方で、自分が監督した作品の企画であり、そこに自ら絵やデザインの仕事をし、新たに魂を込めるということは、自分の表現活動の一部でもあります。
ヴィーナス&ブレイブスという作品とも、この企画や来てくれる方々にも、そして作家としての自分にも、誤魔化すことなく誠実に向き合う必要がありました。
企画当初からミーティングでずっと言い続けていた、私がこの企画に向かうにあたってどうしても守りたかったことは、
「単なる懐古ではなく、今とこれからのためのものにしたい」
ということ。
語弊があるかもしれませんが、昔を懐かしんで、「おとぎの国をもう一度」することは、簡単なんです。
でもそれはしたくなかった。
ヴィーナス&ブレイブスというあの山はとても想い出深い場所ではあるけれども、旅の途中、
13年前に通った場所で、いまこの瞬間もその旅は続いているからです。
「あのころはよかった」なんて、まだまだ当分言いたくない。
「いま、ここ」の現実をうやむやにせず、肯定するものでありたい。
今日も、たぶん明日も生きる“私たち”のためのものでありたい。
それが、七梨乃那由多氏も書いてくれたとおり(→Link1 →Link2)、
ファンタジー世界とその不可逆的時間経過をテーマにし、また安易な予定調和に安住しなかった
『ヴィーナス&ブレイブスらしい姿』だと認識したのです。
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その結果たどり着いたのは、
「この13年の経過をなかったことにしない」
ということ。
16歳の女子高生が
29歳のお母さんになっている。
当時31歳の私は44歳になり、
18歳の青年がいま31歳になっている。
お互いに、見える世界、持っているもの、信じていることが、当時とはだいぶ違っているはずです。至極自然な、美しいことです。
そういうことを“前提に”、この企画を共有したかった。
そうして、キーヴィジュアルは時間の経過と、現実社会との繋がりをテーマに持つ絵になりました。
“巡礼-亡き王都へ-”
2015 川口 忠彦
プレトークでは、「子供をあやすような話ではなく、大人同士の、中身の濃い話をしよう」と、決心しました。
言ってみれば、私はサンタクロースの衣装を脱いで、皆さんの前に出た。
「知っての通り、サンタクロースという架空の老人はいない。
サンタは君たちのお父さんやお母さんだ。
今、みんなは大人だ。
今度は君たちがサンタになって誰かに夢を見させてあげられる。
誰かの希望になることができる。
それって、おとぎ話のサンタクロースよりも、ずっと確かで夢があることじゃないかな?」
そんな意味の話をしました。
大人になって現実を知ることって、夢がなくなるようなことばかりじゃなくて、
大人が本気で抱くロマンは、地に足がついた、スケールの大きなものだと思うのです。
なにより実現を目指し、時にそれが現実になることがある。
まさにこの日のようにです。
そんな視点から、この企画を捉えてみてほしかった。
あの時私たちが作った、壮大なファンタジー世界と、私たちが生きる今を、紐づけて、まるごと肯定したかった。
その位置づけと、演出をしたのが、今回の私の仕事です。
2016年1月9日 東京 三鷹。
ヴィーナス&エコーズは大盛況で、厳粛な雰囲気のなか幕を開け、夢のように過ぎ、幕を閉じました。
プレトークの最後、わたしは開発関係者や演奏会の関係者そして何よりファンの皆さん、二次創作などで盛り上げてくれた皆さんにむけて
心からの感謝を告げ、深く深く一礼をしました。
これで、「ファンの皆さんへの恩返し」は完結です。
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13年たって、君たちはいま、
それぞれ自分で舟を漕いで進んでいける。
一人一艘。
他の舟と寄り添ったり、離れたりして。
あたらしい旅は始まっている。
僕の探検に付き合える、勇敢なあなたは、
これから描かれる、僕の作品と個展で合流しよう。
昔と違って今は一人だけど、僕の旅は続いていて、一人しか通れないような秘密の景色もたくさん見てきたよ。
深い淵や、最果ての風景を、冥府に浮かぶ満天の星を、一緒に見よう。
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末筆ながら、
主宰の河合晃太さん、メインスタッフの西田さん、デザインの白倉良晃氏、指揮者の家田さんおよび演奏者の皆さん、演奏のための編曲で多大な協力をしてくれたおおがみまさこさん、スタッフの皆さん、すべてのお客様、ヴィーナス&ブレイブスの開発に関わってくれたすべての皆様、VENUS&ECHOESに関わってくれたすべての皆様に心より感謝いたします。
ありがとうございました。
また会える未来を楽しみに。
川口忠彦
HESOMOGE
拝